「ソフトを他人に作らせる日本、自分で作る米国」著者:谷島宣之、発行:日経BP社と言う本が
2015年2月に出版されました。著者の谷島さんによると「日本企業は自社で利用するソフトのほとんどをIT(情報技術)企業に開発させているのに対し、米国企業はソフトを内製する比率が高い。2010年のアメリカにおけるシステム開発のソフト投資の内訳は内製37%、外注34%、パッケージソフト29%となっており、これに対して日本の状況は(日本の内製化の統計がないので推計すると)外注7割、内製2割、パッケージソフト1割」だそうで、また、「日本のソフト開発技術者の大半はIT企業に所属するが、米国のソフト開発技術者の大半はIT企業ではなく一般企業に所属している。」そうです。
しかし、日本企業も遅まきながらシステム内製化への挑戦が見られるようになってきました。
最近の日本企業のシステム開発の動向として日経2021年11月4日によると・・・
「=DX先進企業はシステム内製 セブンや無印が大量採用=
本業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を担うシステムを自社の手でつくり上げるのは必然だ。セブン&アイ・ホールディングスや良品計画、カインズなど先進企業は一斉に内製力の強化に動く。市場の変化に即応する最善手として注目が高まっているほか、開発環境の充実も追い風だ。
近年、セブン&アイのようにユーザ企業がITエンジニアを雇用し、自らシステム開発に乗り出す動きが盛んになっている。」と報道されています。
内製化に取り組む大手企業の例(日経2021年11月4日)
日経2021年11月4日では、次のようにも書かれています。
=内製化による新たな課題も=
システム開発を内製するメリットは大きく4つある。
(1)システム開発に関する情報共有やコミュニケーションが社内で完結するため、市場の変化に迅速かつ柔軟に対応できる
(2)業務をよく理解する社員を巻き込みやすいため現場のニーズをより正確に反映できる
(3)軽微な機能追加や改修に固定費内で対応できる
(4)社内にシステム開発のノウハウを蓄積できる──だ。
内製化を進めれば新たな課題も発生する。従来の外注型開発に慣れた企業にとっては、人材の確保からマネジメント、IT企業との付き合い方、経営陣の意識まで、様々な変革が必要だ。
ZDNet Japan 藤本和彦 (編集部) 2017-11-01では・・・
「食肉加工メーカーの信州ハムは、基幹業務の製造工程を管理する生産管理システムを「FileMaker」で内製化した。iPadを工場内に設置し、各工程でのデータ入力を徹底するようにした。生産工程のリアルタイムな可視化と、有事の際の食品追跡を実現した。」と報道されています。
また、この事例でも「開発当初は『管理者目線』でシステムを作り込んでしまい、現場利用者から不評を買ってしまったという。そこで、デザイン思考のアプローチなどを取り入れ、現場利用者とコミュニケーションを図りながら画面や機能の改善を繰り返していった。日々の入力や作業が必要なシステムだからこそ、現場を熟知したメンバーによるシステムの開発が重要だった」と伝えています。
これらの記事は「内製化」についてですが、大きくは取り上げられていませんが共通している部分があります。それは・・・
前者の記事では「業務をよく理解する社員を巻き込みやすいため現場のニーズをより正確に反映できる」とあり、また、後者の記事でも「日々の入力や作業が必要なシステムだからこそ、現場を熟知したメンバーによるシステムの開発が重要だった」とあることです。
つまり、「ユーザ中心の要件定義」が重要だということが共通点です。
「システム内製化」と言うと、とかくIT技術者の採用に目が行きがちですが・・・
日経2021年12月27日では「内製化のワナ」としてこのように伝えています。
「1つ目のワナは「社内外注」に陥る危険性だ。企業の最高技術責任者(CTO)らが集まる日本CTO協会の理事で、技術戦略コンサルティングを手掛けるレクター(東京・渋谷)の広木大地取締役は「デジタル戦略の強化に向け、内製化の取り組みは非常に有効な手段の1つ」としたうえで、「新しい文化を取り入れる意識がなく、発注者マインドのまま内製化に取り組む企業はうまくいきづらい」と指摘する。
発注者意識のまま内製に取り組めば、受発注の関係がそのまま社内で構築され、結局は外部に「丸投げ」しているのと変わらない。互いがリスクを避けるために「ITのことは分からないので情報システム部門に任せる」「ユーザ部門から文句を言われないよう納期を保守的に見積もる/言われた機能だけを実装する」などの状況に陥りやすい。
形だけの内製では迅速で柔軟な開発という、内製の本来の効果を発揮できないばかりか、丸投げされたエンジニアが苦境にさらされる。そしてそのような企業からはエンジニアがすぐに離れ、結果として誰も改修できないレガシーシステムが残る。再び外注依存に揺り戻す事態となりかねない。」
この問題も、突き詰めて考えると社内の業務(ユーザ)部門が要件定義を積極的に行う社内体制が整っていれば自ずと解決される「ワナ」です。
今回はいくつかの記事からシステム開発の内製化においても「ユーザ主導の要件定義」がたいへん重要であり、「ユーザ主導の要件定義」ができれば、外注した場合でも大きな価値が生まれることを気づいて戴きたいと思います。