バランストスコアカードとビジネスモデルA026

1.     バランストスコアカードとは
バランストスコアカード(BSC)は、1992年ハーバードビジネススクールのロバート・S・キャプラン教授とコンサルタント会社社長のデビット・P・ノートン氏により発表された業績評価シスムです。
それまでの業績評価は専ら財務分析のみによるものだったことに対し、評価の視点を拡張して、次の4つの区分で企業戦略を分析・決定する枠組みを提案しました。

(1)    財務の視点(従来の財務会計・キャッシュフロー等)

(2)    顧客の視点(売上の源泉たる顧客やマーケット等)

(3)    業務プロセスの視点(顧客への価値を生み出す社内プロセス)

(4)    学習と成長の視点(組織や人材の成長及び知財等)

 

 

1.     バランストスコアカード策定の方法

(1)     戦略マップ(ビジョンと戦略の策定)
バランストスコアカードは「経営戦略の見える化」が第一の目標です。その為にまず
表1の1列目にある「戦略マップ(戦略目標)」を描きます。誰もが理解できるように
模式化された「マップ」でビジョンと戦略を表現します。

通常は「財務の視点」から作成するのが一般的です。図1の事例では「経営基盤の強化」が頂点に置かれ、その実現のためには「収益性の向上」「生産性の向上」が必要だとブレークダウンされています。

更に財務の視点における「収益性の向上」のためには、顧客の視点において「客数の向上」と「客単価の向上」にブレークダウンされています。

財務の視点の「生産性の向上」は、業務プロセスの視点における「ロス率の低減」にブレークダウンされ・・・このように経営戦略が要素に分解され合理的な因果関係のもとで構造化されます。

(2)    重要成功要因(CSFCritical Success Factor)の定義
戦略目標を決めたら、その目標に向けて何をするのかという「重要成功要因」を設定します。重要成功要因とは、Critical Success FactorCSF)とも言われ、目標を戦略的に達成する為の重要な要因のことを言います。何が、重要成功要因なのか・・・、それを見つける為にSWOT分析、クロスSWOT分析などがありますが、ここでの解説は割愛します。重要成功要因は、戦略目標を構成する「要素」であり後述するアクションプランとは違い、具体的な行動ではありません。
M
社の事例では2列目に、戦略目標と対応したCSFが掲げられています。

(3)    重要目標達成指標(KGI)と重要業績評価指標(KPI
バランス・スコアカードでは成果として認識する「数字」を把握することが必要です。その数字とは、重要目標達成指標(KGIKey Goal Indicator)と重要業績評価指標(KPIKey Performance Indicator)です。これらの数字を追ってゆくことで、重要成功要因(CSF)の達成状況をモニターして行きます。各部門が自身のKPIを追求することで最上位の目標値であるKGIを達成するという考え方です。勿論、KPIの合計値がKGIになるわけではありません。

 

表2

1.     バランストスコアカードの利用における主要なポイント
ここまでバランストスコアカードについて説明してきましたが、なぜ、バランストスコアカードなのかと言うと、下記の事項に集約されます。

(1)   ビジネスモデルが静態的な「姿」であることに対してバランストスコアカードは「姿」を変化させるための動態的な「活動」であること。

(2)   過去・現在・未来における行動を分析・計画できること。

(3)   組織の活動を全体的視点で俯瞰できること。

(4)   組織のなかで経営目的や戦略を共有できること。

(5)   全社の従業員等の行動に経営目的との整合性を確保できること。

(6)   経営活動の成果を、継続的且つ整合性をもって計測できること。

 

2.     バランストスコアカードによる戦略立案における「チェンジ」の重要性

(1)   近年、VUCAVolatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)といわれるように、ビジネスを取り巻く環境はめまぐるしく変化し、将来の予測が困難な時代になっています。そうしたなかで企業は常に環境の変化に素早く対応して行かなければなりません。バランストスコアカードも漫然と策定するのではなく、「チェンジ(変化)」を意識することが非常に重要です。経営環境が変わらず、今まで通りの業績で良いならば戦略は必要ありませんが、マーケットで勝ち残るにはありえないことです。チェンジとは、弱点を減らし、得意な分野を伸ばすために、具体的に現状から何を変化させるのか考えることです。勿論、積極的に「チェンジしない」というチェンジもあります。

(2)   バランストスコアカードの4つの視点に加えて、特許や商標、ノウハウ等の知財を「第5の視点」にするというアイデア(※)もありますが、ソフトウェア戦略やブランド戦略の重要性が認識される現代で、アマゾンの戦略などを見ていると有り得る考え方だと思います。
※技術開発型企業における知的財産の視点を加味したバランス・スコアカードによる戦略研究:大田・佐々木(20182 月)

3.     バランストスコアカードの各「視点」における「チェンジ」をビジネスモデルと共に考える

 

表3ビジネスモデルキャンバス

(1)   財務の視点

-1-ビジネスモデルキャンバスの「収益の流れ」「コスト構造」が該当します。

-2-「額」で管理するものと「率」で管理するものに分かれるます。

-3-「貸借対照表(B/S)」項目、「損益計算書(P/L)」項目に分かれ、前者は長期的な視点が、後者は短期・長期両方の視点から見ることになります。

-4-AmazonのB/Sを分析している興味深いサイトがありますのでご一読ください。
Amazon
のダイナミックな「チェンジ」の軌跡を知ることができます。
note「貸借対照表の変化から読み解くAmazonの経営戦略」
https://note.com/jireikaikeiryoku/n/n3ae5cfea668c

-5-投資や配当など、自社の裁量で「チェンジ」を決定できる部分と、売上・利益など他律的な部分があります。

(2)    顧客の視点

-1-   ビジネスモデルキャンバスの「顧客セグメント」「顧客との関係」「販売チャネル」
「提案する価値」が該当します。

-2-   ブランド戦略なども「顧客の視点」における重要な要素です。

-3-   「提案する価値」のチェンジでは電気自動車などの新商品発表や既存車種のマイナーチェンジ行うなど自動車業界のモデル戦略が好例です。

-4-   以前のブログで「Amzon AWSの誕生裏話」をご紹介しましたが、そこには自社のシステムリソースを外販するという「顧客の視点」全般に及ぶ「チェンジ」がありました。

(3)    業務プロセスの視点

-1-   ビジネスモデルキャンバスの「主要活動」「主要リソース」「主要パートナー」が該当します。しかし「主要」に限らず「すべての」になります。

-2-   基本とすべきはビジネスプロセスマネジメントです。筆者はビジネスプロセスマネジメントを「業務最適化活動」と呼んでいます。内容は「必要且つ正しい(正確な)モノ・コト・情報を最短時間に最少コストで、必要とする相手に届ける」活動です。

-3-   ビジネスプロセスマネジメントについては別の機会に詳しくお伝えしますので、詳しい内容は割愛しますが、ここで申し上げたいポイントは、多くの企業で業務プロセスがマネジメント出来ていないということです。どういうことかと言うと、例えば多くの企業でシステム開発を行うときに現場の現状(As-Is)調査から始めるのが一般的ですが、
これは工場で、レイアウトや工具の置き場所などが分からず一から調査し図面を書いていることに等しいと言え、その意味するところは「必要且つ正しい(正確な)モノ・コト・情報を最短時間に最少コストで、必要とする相手に届ける」活動が「業務」については出来ていない・・・と言うことなのです。

-4-   生産現場においては「カイゼン活動」等で効率化が進んでいる日本で、システムが効率的に開発出来ないという大きな問題の原因がここにあります。

(4)    学習と成長の視点
学習と成長の視点は、主にヒトにフォーカスしビジネスモデルキャンバスの主要リソースにあたり、4つのカテゴリーからなっていると考えます。

l  従業員の能力

l  情報システムの能力

l  モチベーション、エンパワーメント、アライメント

l  コミュニケーション

-1-   従業員の能力
従業員の職務遂行能力を高める施策です。職務遂行能力は、その業務を行う上で必要なスキル・ノウハウを保有していることに加え分析力やマネジメント力などを高めるために必要な人事制度や教育制度などが対象となります。

-2-   情報システムの能力
情報システムは現代において企業・組織にとって不可欠なものであり、業務プロセスの視点においても重要な要素です。既に述べたように我が国は情報システムの分野で周回遅れとも言われていますので、今後、大幅且つ高度な改革が必要です。

-3-   モチベーション、エンパワーメント、アライメント
モチベーションとは、組織のメンバーの「やる気の向上」を促す施策であり、エンパワーメントとは、組織のメンバーの能力を引き出す施策です。そして、アライメントとは組織のメンバーが一糸乱れぬ調和と統制の下に業務遂行に当たれるようにする施策です。

 

-4-   コミュニケーション
組織のメンバーが組織の方針や戦略を理解し、互いに協調して業務に当たる為には
経営者とのトップダウンのコミュニケーション、隠し事のない報連相によるボトムアップのコミュニケーション、そして組織のサイロ化を防ぐための横展開のコミュニケーション、が不可欠です。