ビジネスプロセスマネジメントにおける「プロセスマップ」と「要件定義」A027

ビジネスプロセスマネジメントに関しては、「ビジネスプロセスの教科書 山本 政樹  () 東洋経済新報社」と言う名著があります。このブログでは同書を参照してご紹介しています。また著者のブログでは本に加えて懇切な解説をしてくださっているので是非、ご参照願いたいと思います。https://clover.lt-s.jp/?tag=bpmn

 

 

1.     バリューチェーン「ポーターの価値連鎖」(Value Chain
バリューチェーン「ポーターの価値連鎖」とは、企業の全ての活動が最終的な価値にどのように貢献するのかを体系的かつ総合的に検討する手法です。ハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授が提唱した概念で、1985年に発表した著作「競争優位の戦略」中で紹介されています。バリューチェーンは、事業を顧客にとっての価値を創造する活動という切り口から分解し分析することを目的としています。そして、製造業をベースとした図1のモデルを提唱しました。
図1 バリューチェーンモデル

図の中の「主活動」は直接「顧客価値」を生み出すプロセスであり、業種・業態により様々なパターンがあります。「支援活動」は、直接的な価値を生み出しませんが主活動を支える様々な活動が含まれます。

 

2.     バリューチェーンモデルとプロセスモデル
ポーターは「競争優位」を確立するためのアイデアとしてバリューチェーンを提唱しましたが、ビジネスプロセスマネジメントにおいても重要な要素を提供してくれています。
それは、ポーターの示したバリューチェーンモデルが、ハイレベルプロセスモデルの原型だと言うことです。「ビジネスプロセスの教科書」のなかで紹介されている著者山本氏が属しておられるビジネスプロセスマネジメントのコンサルティング会社株式会社エル・ティー・エスのプロセスモデルを参照してみましょう。

 

3.     株式会社エル・ティー・エスのプロセスモデル

 

図2 株式会社エル・ティー・エス全社のプライマリプロセス(レベル1)

支援活動として以下の3つのプロセス

(1)   事業管理プロセス

(2)   経営支援プロセス

(3)   情報基盤プロセス

主活動として以下の3つのプロセス

(1)   マーケティングプロセス

(2)   コンサルティングサービスプロセス

(3)   組織人財開発プロセス

 

合計6つのプロセスに集約され、このプライマリープロセスを起点としてプロセスが細分化されて行きます。株式会社エル・ティー・エスでは、レベル4まで階層化して129個のサブプロセスに構造化しておられます。レベル4の意味は図3組織構造とプロセス階層レベルをご参照ください。組織構造とプロセス構造は100%重なるとは言えませんが、大きい意味でのレベル感は重なっています。
レベル4まで構造化することによって、株式会社エル・ティー・エスにおけるプロセス構造を全体的に俯瞰し理解することができます。

図3 組織構造とプロセス階層レベル

図4株式会社エル・ティー・エスのレベル4プロセスマップ

「ビジネスプロセスの教科書」では、レベル4の「経理/決済/税務/財務サブプロセス」のうち「経費精算」について更にレベル7まで構造化した事例が掲載されています。

 

 

図5株式会社エル・ティー・エスにおける「経費精算」プロセスの構造化

4.     プロセスモデルと要件定義

システム開発における要件定義を行うにあたって、上記のプロセスモデルがあることによって容易にシステム開発の対象範囲「スコープ」が特定できます。プロセスモデルによってそのプロセスが何をインプットとして何をアウトプットとしているのかが明確になるので、無駄なあるいは対象外の要件を排除することができます。
このことはシステム開発における大きな問題である「スコープ膨張」(Scope Creep)、つまり、開発の過程において「要求」が膨張し、「要件」が際限なく増えてしまう現象を抑制することができ開発プロジェクトのQCDの効率化・安定化を図ることができます。

 

5.     一般企業におけるプロセスモデルの策定
⇒株式会社BPデザイナーズ社のご紹介
「そうは言っても、ビジネスプロセスマネジメントのプロだからそれが出来るのではないの?」と言う声が聞こえて来そうですが、ビジネスプロセスマネジメントについてのコンサルティングについて短期間で簡易な対応が出来るコンサルタント会社があります。
(筆者は、株式会社エル・ティー・エスについては、書籍、Web以上の情報がありません。)
株式会社BPデザイナーズ社
https://bp-designers.com/
https://bp-designers.com/about
はBPEC(Business Process Engineering Cycle)と言う業務改善手法とそれを実施するためのBPECツールソフトウェアを提供しています。同社のサービスとBPECについての詳細は同社のサイトをご覧ください。

筆者がBPECを推薦する理由は、BPECツールソフトウェアにはBPデザイナーズ社がコンサルティングの中で蓄積した57種類の標準業務プロセステンプレートが実装されており、このテンプレートにより非常に短期間に自社のプロセスモデルを策定することができるためです。

標準業務プロセステンプレートとは、「業務参照モデル」とも呼ばれる業務プロセスの「お手本」です。自社のプロセスモデルをゼロから策定するのは大変な体力が掛かりますが、お手本があれば大幅に体力の削減が可能です。筆者の知る限り業務参照モデルがソフトウェア化されているのはBPEC以外にはありません。

 

筆者はこのソフトの利用者の一人で、BPデザイナーズ社とそれ以上の関係はありません。

 

図6 BPECテンプレートの事例

(出典:BPデザイナーズ社のパンフレット)

 

 

6.     まとめ
上でも述べましたが、システム開発プロジェクトの大敵は「スコープ膨張」(Scope Creep)です。これを抑制するにはビジネスプロセスマネジメントが非常に有効であり、一旦採用すればシステム開発のみならずその後の継続的な業務改革・改善の基礎とすることができます。
また、「スコープ膨張」を抑制する手段としてデータフローダイアグラム(DFD)がありますが、別の機会にご紹介したいと思います。